2010年3月より、アーティスト:海老由佳子のワークショップなどの一連の活動をきっかけにゆるやかにつくられてきたアート・スペース「シンブンシャ」および「シンブンシャ・プロジェクト」ですが、このたび「放課後美術部『しんぶんしゃ』」という企画名称にて、2014年度に、AAF(アサヒアートフェスティバル)の参加団体となりました。
AAFには、2007-2009年の3カ年、WAPが参加してきましたが、AAFを通じて大きくなったWAPからシンブンシャが生まれ、今度はシンブンシャがAAFへと参加することになります。
もしかしたら、数年後にはシンブンシャから新しいプロジェクトや団体が生まれ、AAFへ参加するのでしょうか??笑
ーーーー
今回、AAFへの参加(応募)を決めたのはさまざまな理由がありますが、かねてよりAAFが「助成金プログラムではない」と述べられているように、AAFには助成よりも大きな比重で、全国、また少しずつ世界へと拡大しているアートプロジェクやアートNPO、マイクロ・レジデンスなどとのネットワークがあります。
シンブンシャの鏡に、今も海老由佳子の「シンブンシャから、世界へ」との文字が踊っていますが、足尾という小さな、そして端から見れば寂れてしまった街の中で生まれ育ったシンブンシャだからこそ、その「世界へ」という言葉の意味の大きさを持ち得ると思います。
また、シンブンシャという場所が、もはやアーティストによるイニシアティブでも、単純な地域振興でもなく、関わる人々の意識をアートへと変える作用を持ち、そして中心にいる子供たちにとって、教育にはない社会との関係を構築する重要な場所でもありました。
シンブンシャを動かす子供たちにとっての「世界」は、まだ足尾の街とその周辺、それとテレビやインターネットの中の一部分でしかありませんが、彼・彼女らの「世界」は、AAFへの参加によって大きく変貌することと思います。
折しも、シンブンシャの中心メンバーは、2014年4月から足尾中学校に通う中学生となります。
山間集落の学校教育にはもはや一般的見解となっていますが、子供の数が少ないことで教育環境そのものの選択肢がせばまってしまいがちです。具体的に、シンブンシャを動かしている彼・彼女らが通う予定の足尾中学校での部活動の選択肢はたった2つしかありませんし、そのどちらも、十分に活動ができるほど人数に恵まれていません。しかし、子供の数が少ないことは、それぞれの個性に合わせた究極的な個性化教育へと進めることもできるのかもしれません。
学校教育での、単一基準によって数値化されがち価値観を、シンブンシャは変えてくれるかもしれません。
また、小学生の時点では、まだ子供で居られたものの、これからはそうはいきません。けれどもまだできることは子供のそれとあまり変わらない、もどかしい時期を過ごすこととなるでしょう。
シンブンシャもこれまでは聖域的な「小さな世界」であれば良かったかもしれませんが、しかし彼・彼女らが成長すれば、その「小さな世界」は、一瞬で忘れ去られてしまうでしょう。
彼・彼女らと一緒にシンブンシャも成長する必要があると同時に、そのシンブンシャが、彼・彼女らの「世界」を、「大きな世界」に少しだけ近づけてくれるかもしれません。
思えば、銅山のあった頃の足尾は、山奥の小さな街であったけれど「大きな世界」につながっていました。足尾の技術は「世界」変えていて、同時に足尾の富によって人々は「大きな世界」とつながっていました。山奥という物理的な孤立はまったく関係がなかったのです。
しかし産業が失われればただの「小さな世界」でしかなかく、それに嫌気がさしたり諦めを感じ、多くの人や物が失われていき、「大きな世界」との関わりも断絶していきました。
足尾は「世界」とのつながりを再認識するための場所です。
オルター・モダンとは行かないまでも、足尾やわたらせが経て、そして現状へと至った、物語のような事実は、もうひとつの見えなかった「世界」の存在を示している気がしてなりません。
そして「世界」とは「社会」に限りなく近いものかもしれません。
ーーー
シンブンシャは「小さな世界」の小さな場所で、小さな人たちが動いています。
けれどもしかしたら、小さな人たちが大きな人になろうとするとき、大きな場所で「大きな世界」を夢見ようとしたら、この「小さな世界」にも「大きな世界」につながり得る大きな価値があることに気づいてくれるのかもしれません。
むしろ「大きな世界」にはない、その価値の在り方をつくり出してくれるかもしれません。
これまでにはなかった「世界」へのつながり方として。
2010年に、シンブンシャが動き始めたあのとき、海老と少しだけ、そんな話をしたことを覚えています。
あのとき「シンブンシャがAAFとかに参加しちゃったりしたら面白いね」と軽く言っていたことが、彼・彼女らにとって、ほんの遊びの延長であったとしても実現し始めました。
WAPは、ほんの遠足にでも行くような気持ちで、都市を経由してアーティストがわたらせという「小さな世界」へと訪れてきましたが、今度はわたらせから、ほんの遠足にでも行くのと同じ感覚で、小さなアーティストたちが「大きな世界」へと旅立って行きます。
彼・彼女ら小さなアーティストの旅立ちを、ぜひ、みなさまご支援いただけましたら幸いです。
(WATARASE Art Project 代表:皆川)