南橋社宅の一部がいよいよ、取り壊しとなりました。
かつての足尾銅山鉱山住宅(鉱夫社宅)のひとつである南橋地区は、閉山後、公営住宅へと管理が移りましたが、著しい老朽化のため「特別市営住宅」となり、新規での入居者を受け入れられない場所となっていました。
WAPによるアーティストたちは、そうした「居住」を目的としない代替的な利用(制作場所および展示会場)であることから、特別に使用させていただいてきたのですが、この冬、大雪もまだ解けきっていない中、静かに解体工事が行われています。
足尾の原風景的なものが、またひとつなくなっていく。
そんな風に、多くの方は思われるかもしれません。
それはセンチメンタルなことでもありますが、例えるなら、破壊と創造が表裏一体であるように、私たちアーティストは、解体された場所であっても現場とすることができます。
これからが南橋でのプロジェクトの本当の始まり。
この集落の最後のひとり、最後の一軒がなくなるその時、南橋という集落そのものが消滅しますが、そこに至るまでの過程にどのように関わっていくのか。
失われていくことが必然であるのは、すべての物事に等しい事実であり、けれどその事実に正面から向かっていくプロジェクトはそうそうないでしょう。
WAPは、地域振興のためのアートプロジェクトという枠組みにもちろん該当しているかもしれませんが、維持や継続、向上といったありふれた振興策としてのアートではなく、消えていくという必然にこそ、意味を見出そうとしていますし、そのことからアートの存在意義を確かめようとしています。その試みが、今やっと、スタートラインに立ったのかもしれません。
(皆川)